「友情」を読む~平尾誠二と山中伸弥「最後の1年」~
「友情(副題:平尾誠二と山中伸弥「最後の1年」)」を最近、図書館でリクエストして読みました。
選手、監督、指導者として長年日本ラグビーを牽引し、2016年10月に胆管癌で53歳の若さで逝去した平尾誠二氏とIPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授。二人の6年間の交流の最後の一年を山中氏の話しと平尾氏の奥様の話し、そして平尾氏と山中氏二人の対談の3つで構成された著作です。
山中氏は高校時代から平尾氏に憧れ、大学の3年間、ラグビー部でラグビーをやっていました。
平尾氏はラグビーをやっていた人間だけでなく、男女問わず同年代の人たちにとってヒーロー的な存在。
彫りが深くて、男前でもある平尾氏、伏見工業高校ラグビー部を題材にしたドラマ「スクールウォーズ」がテレビで大人気で、平尾誠二氏をモデルにしたキャプテン「平山誠」は女子生徒がファンクラブを作るほど格好いいエースとして描かれていました。
そんな山中氏は神戸製鋼ラグビー部のチームドクターをやっていた後輩を介して平尾氏に会うことができ、その後2010年に雑誌の対談が実現します。
お互い出身が関西、同い年。ラグビーをやっていて共通点も多いことから急速に仲良くなり、幾度となくお酒を酌み交わし、家族ぐるみで付き合うようになり、やがて親友といえる存在になります。そのなか山中氏はノーベル賞を受賞しますが、そんな偉業のあとも二人の気取らない関係は続いていきます。
そんな矢先の2015年10月、平尾氏の吐血がきっかけで癌が発覚します。
コネを使い担当医師からレントゲン写真を見せてもらうと、それは「こうなるまで気付けないものなのか」と思う末期的な状況で、周りの医師たちから「年を超せない可能性高いよ」と言われるほど悪化しており、それは3ケ月の余命宣告でした。山中氏はそれを聞き子どものように号泣します。それから二人の癌との厳しい戦いが始まります。
山中氏は多忙を極めた中でほんの少しでも時間を縫うように頻繁に平尾氏の見舞いにおとずれ、医師として「もし、自分が彼と同じ癌になり、彼と同じ状態だったらどんな治療を受けるか」を必死に考え、死に物狂いで勉強をして治療法を探します。
そして、免疫の分野で去年ノーベル医学賞を受賞した本庶佑京都大教授にコンタクトをとったり、非常に狭き門の未承認新薬の治験のメンバーの中に平尾氏を食い込ませるなど奔走します。
一方、平尾氏も「先生を信じると決めたんや」と治療法を山中氏に一任し、山中氏がすすめる治療法で最後まで明るく前向きに癌と戦い、その結果、3か月の余命宣告から1年以上延命することができました。
最後にとうとう永遠の別れがおとずれ、山中氏が「助けてあげられなくてごめんなさい」と涙を流します。読んでいて泣けます。
わたしはこの本を読んで平尾氏の癌闘病に山中氏が深くかかわっていたことを初めて知りました。
よくありがちな癌闘病記とは違っていて、二人の人柄の良さがよくわかる内容で、二人の癌の闘いざまがまさに大人の男の友情を物語っています。
最初タイトルを見たときは、「友情」とはこれまたベタなタイトルだなと思いましたが、読み終わったあとは、このタイトル以外無いなと強く思いました。
最初の山中氏の章はとくに読みごたえがあります、その章の最後に平尾氏の「人を叱る時の四つの心得」のエピソードが出てきます。
ープレーは叱っても人格は責めない
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あとの二つはさてなんでしょう?興味がありましたら本で読んで確認してみてください。なかなか含蓄深い言葉です。
それにしても、ラグビーワールドカップ2019日本大会に平尾氏が不在なのは実に残念でなりません。
(のげ)
2019/09/28