イチローの引退会見を見て~自分の中の秤(はかり)~
とうとうこの日がきてしまいました。
みなさんはイチローの引退会見を見ましたか?
ニュースでダイジェストで見られた方が殆どだと思いますが、わたしもちょっとみるつもりが面白くて会見を全部観てしまいました。
記者の質問に「ひとの話し聞いていました?」、「(シンプルな質問と言った記者の質問に対し)あまりシンプルではないですね」、「それは裏で話しましょう」「それに答えるのは野暮」「これを答えたらバカでしょう」と、バッサバッサ切ってかわしていくのが痛快でした。
ちょっと長いですがいくつか紹介します。
(決断に後悔や思い残したようなことは?)
「今日のあの、球場での出来事、あんなもの見せられたら後悔などあろうはずがありません。
もちろん、もっとできたことはあると思いますけど、結果を残すために、自分なりに重ねてきたこと。
人よりも頑張ってきたなどとは言えないけれど、自分なりに頑張ってきたとははっきりと言える。
これを重ねてきて、重ねることでしか、後悔を生まない、ということはできないんじゃないかと思います」
(子供たちに是非メッセージを)
「シンプルだなぁ。メッセージかぁ。苦手なのだな、僕が。
まぁ、野球だけでなくてもいいんですよね、始めるものは。
自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げるので。
そういうものを早く見つけてほしいなと思います。
それが見つかれば、自分の前に立ちはだかる壁に向かっていける。向かうことができると思うんですね。
それが見つけられないと壁が出てくると諦めてしまうということがあると思うので。
色んなことにトライして、自分に向くか向かないかというより自分が好きなものを見つけてほしいなと思います」
(涙がなく、むしろ笑顔が多いように見えるのは、この開幕シリーズが楽しかったということか?)
「これも純粋に楽しいということではないんですよね。
やっぱり、誰かの思いを背負うということはそれなりに重いことなので、そうやって1打席1打席立つことは簡単ではないんですね。
だから、すごく疲れました。やはり1本ヒットを打ちたかったし。応えたいって当然ですよね、それは。
僕に感情がないって思っている人はいるみたいですけど、あるんですよ。意外とあるんですよ。
だから、結果残して最後を迎えたら一番いいなと思っていたんですけど、それは叶わずで。
それでもあんな風に(ファンが)球場に残ってくれて。
まぁ、そうしないですけど、死んでもいいという気持ちはこういうことなんだろうなと。死なないですけど。
そういう表現をするときってこういうときだろうなって思います」
(最低50歳まで現役ということをいってきたが、日本に戻ってもう1度プロ野球でプレーするという選択肢はなかったのか?)
「ただねぇ50まで、いや最低50までって本当に思ってたし。でもそれは叶わずで。
有言不実行の男になってしまったわけですけど、でも、その表現をしてこなかったら、ここまでできなかったかなという思いもあります。
だから、言葉にすること。難しいかもしれないけど、言葉にして表現することというのは、目標に近づく一つの方法ではないかなと思っています 」
(イチロー選手の生きざまで、ファンの方に伝えられたことや、伝わっていたらうれしいなと思うことはあるか?)
「生きざまというのは僕にはよくわからないですけど、生き方というふうに考えるならば……
先ほどもお話しましたけども、人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。
あくまでも、はかりは自分の中にある。それで自分なりにはかりを使いながら、自分の限界を見ながら、ちょっと越えていくということを繰り返していく。そうすると、いつの日からかこんな自分になっているんだ、という状態になって。
だから少しずつの積み重ねが、それでしか自分を越えていけないと思うんですよね。
一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、それは続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない。
進むだけではないですね。後退もしながら、ある時は後退しかしない時期もあると思うので。
でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。でもそれは正解とは限らないですよね。
間違ったことを続けてしまっていることもあるんですけど、でもそうやって遠回りすることでしか、本当の自分に出会えないというか、そんな気がしているので」
(プロ野球選手になるという夢を叶えて成功してきて、今何を得たと思うか?)
「成功かどうかってよく分からないですよね。
じゃあどこからが成功で、そうじゃないのかというのは、全く僕には判断できない。成功という言葉がだから僕は嫌いなんですけど……
メジャーリーグに挑戦する、どの世界でもそうですね、新しい世界に挑戦するということは大変な勇気だと思うんですけど、でもここはあえて成功と表現しますけど、成功すると思うからやってみたい、それができないと思うから行かないという判断基準では後悔を生むだろうなと思います。
やりたいならやってみればいい。できると思うから挑戦するのではなくて、やりたいと思えば挑戦すればいい。
そのときにどんな結果が出ようとも後悔はないと思うんです。
じゃあ自分なりの成功を勝ち取ったときに、達成感があるのかといったらそれも僕には疑問なので。
基本的にはやりたいと思ったことに向かっていきたいですよね」
(孤独を感じながらプレーをしていると言ってたが、孤独感はずっと感じていたのか)
「アメリカに来て、メジャーリーグに来て……外国人になったこと。
アメリカでは僕は外国人ですから。このことは……外国人になったことで、人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですよね。この体験というのは、本を読んだり、情報を取ることはできたとしても、体験しないと自分の中からは生まれないので。
孤独を感じて苦しんだことは多々ありました。ありましたけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと、今は思います。
だから、辛いこと、しんどいことから逃げたいと思うのは当然のことなんですけど、でもエネルギーのある元気なときにそれに立ち向かっていく、そのことはすごく人として重要なことなのではないかなと感じています」
と、こんな感じで、このイチローの引退会見は引退会見にありがちな涙も終始なく笑顔で、冷静沈着。
丁寧に、ときには記者に混ぜっ返して笑いもとっていく、皮肉も利かせつつ、じんとくるような含蓄の深い名言ばかりが飛び出した会見になりました。
「死なないですけど」が私のツボでしたね、ライブで流れで聴くとホント面白いです。まさに「イチロー劇場」でした。
偉大なアスリートは名言を多々残していますが、イチローほどたくさんの名言を残しているアスリートはいないのではないでしょうか。
壁にぶつかったときしみる言葉ばかりです。
イチロー語録、イチローの名言をまとめた本はたくさん出版されています。
引退会見を見て読んでみようかなと思った人もいるのでは。
わたしもこの機会に読んで「イチロー哲学」や、美学に触れてみたいと思います。
(のげ)